はぎの通信 No.142(気概こそ大切)
はぎの通信 No. 142 (R7. 10.27)
中越高等学校長 萩野 俊哉(はぎの・しゅんや)
気概こそ大切(Spirit is what matters)
皆さんは、「私がやらなきゃ誰がやる!」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。これは、リーダーとして前に立ち、仲間を導く強い意志を表す言葉です。困難な状況においても「自分がやらなければ物事は進まない」と覚悟を決め、周囲に力を与える姿勢は、組織や社会を前進させる大きな原動力となります。勇気ある一歩を踏み出す人がいるからこそ、他の人も安心してその後に続くことができるのです。
一方で、「誰もやらなきゃ私がやる!」という言葉もあります。こちらは、表に立つのではなく、むしろ誰もやらないことに静かに手を差し伸べる姿勢を示しています。誰にも褒められず、時に気づかれもしないかもしれませんが、それでも必要なことを引き受ける人がいるからこそ、集団は秩序を保ち、安心して前に進めるのです。日常の中の小さな行為、例えば落ちているゴミを拾う、忘れ物を届ける、困っている友人に声をかける等々に、この精神は息づいています。
私たちが生きる社会には、この二つの姿勢がどちらも欠かせません。堂々と前に立ち道を切り開く人と、静かに支えを担う人。その両方が揃ってこそ、組織や地域は力を発揮し、持続的に成長していきます。そして何より大切なのは、この二つを融合し、バランスよく自らの中に持ち続けることです。つまり、「気概」を持つということです。
気概とは、単なるやる気や元気ではありません。状況に応じて「自分が先頭に立つべきか」「それとも誰もやらない役割を自分が担うべきか」を見極め、行動に移すことができる心の構えです。華やかさと地道さ、主役と脇役、その両方を引き受けられる柔軟さと覚悟が合わさったとき、人は真に頼れる存在となります。
中越高校での日々の生活は、この気概を育む絶好の場です。学習や部活動、行事の中には、リーダーとして力を発揮する機会もあれば、目立たない役割を担う場面もあります。どちらも等しく尊く、どちらも欠かすことのできないものです。生徒の皆さんには、ぜひ両方を経験し、自分なりの「気概」を身につけてほしいと願っています。
「私がやらなきゃ誰がやる!」と「誰もやらなきゃ私がやる!」。一見、正反対のように見えるこの二つの言葉は、実は同じ根から生まれたものです。いずれも、自分の責任を逃げずに引き受ける姿勢を表しています。そして、その融合とバランスこそが、人として成長するうえで最も大切な「気概」なのです。
どうか皆さんも、日々の生活の中でこの言葉を思い出し、勇気をもって一歩を踏み出すとともに、静かに支える優しさをも兼ね備えた人へと成長していってください。その歩みが、自分自身の未来を拓き、やがては地域や社会を支える大きな力となることを、心から期待しています。
以上